2024/11/26
栃木県・埼玉県を中心に、全国の企業の労務管理を支える社会保険労務士法人アミック人事サポートです。
2025年4月1日に施行される育児介護休業法の改正は、企業と従業員の双方にとって大きな影響を及ぼします。
この改正は、働き方改革や少子高齢化への対応を背景に、仕事と家庭を両立しやすい環境を整えることを目的としています。
本記事では、改正内容を社労士として分かりやすく解説し、企業が実務で対応するための手順を紹介します。
2025年4月の改正は、育児や介護に関する制度を強化する内容となっています。具体的には、看護休暇や介護休暇の拡大、テレワークの推進、育児休業取得率の公表義務の拡大などが含まれています。
それぞれのポイントを押さえることで、企業はスムーズに法改正に対応できます。
以下に、改正の背景を説明した上で、具体的な改正内容を順を追って解説します。
日本社会では少子高齢化が進み、育児や介護に直面する労働者が増えています。特に以下の課題が深刻化しています。
令和5年度雇用均等基本調査によると、男性の育児休業取得率は令和5年度時点で30.1%と過去最高値を記録しました。
取得率は年々上昇しているものの、依然として多くの家庭で育児の負担が偏る傾向があります。
この状況は、働くすべての人にとって負担となり得るため、男女問わず育児に積極的に関与できる環境の整備が必要です。
令和4年就業構造基本調査によると、日本の介護離職者数は年間約10万人と推定されており、これは労働市場に大きな影響を及ぼしています。
特に中高年層の離職は、企業の人材流出の一因ともなっています。
これらの背景を踏まえ、国は育児や介護を理由とした離職を防ぐために、法改正が実施されました。
以下では、厚生労働省の「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」を元に、具体的な内容を9つのポイントに分けて解説します。
改正により、子の看護休暇の対象年齢が「小学校就学の始期に達するまで」から「小学校3年生修了まで」に拡大されます。
また、取得可能な理由に「学級閉鎖」や「入園式」「卒園式」が追加されるため、従業員が子どもの成長に合わせた柔軟な対応を取りやすくなります。
更に、「労使協定による継続雇用期間6か月未満の除外規定」が廃止されます。名称も「子の看護休暇」から「子の看護等休暇」に変更されます。
例えば、小学校2年生の子どもの学級閉鎖時に休暇を取得して、家庭でのサポートに専念できるようになります。
また、入園式や卒園式への参加を理由に休暇を取得することも可能になります。
企業が取り組むべき具体的な対応策は以下の通りです。
▶︎就業規則の改定
新たな対象範囲と取得理由を明記し、従業員が安心して休暇を取得できる環境を整備します。
▶︎労使協定の締結
「労使協定による継続雇用期間6か月未満の除外規定」が廃止されることに伴い、労使協定を締結します。
▶︎周知活動の強化
改正内容を従業員に正確に伝えるため、説明会や社内メールを活用します。
▶︎取得状況の管理
休暇取得データをデジタル化し、管理を効率化することを検討します。
これまでは「3歳未満の子を養育する労働者」のみが対象だった所定外労働の制限(残業免除)が、今回の改正で「小学校就学前の子を養育する労働者」まで対象が拡大されます。
この変更により、就学前の子どもを持つ従業員がより柔軟に働ける環境が整備されます。
幼稚園年長の子どもを持つ親が、子どもの習い事や送り迎えのために残業免除を申請するといったケースが考えられます。
▶︎対象範囲の明確化
改正内容を就業規則に反映し、残業免除の対象者を具体的に明記します。
▶︎申請フローの整備
残業免除を希望する従業員がスムーズに申請できる簡潔な手続き方法を整備します。
▶︎管理職への教育
部下からの残業免除申請に適切に対応するため、管理職向けの研修を実施します。
短時間勤務制度の代替措置として、「テレワーク」が新たに選択肢に加わります。
この改正により、3歳未満の子を養育する従業員が短時間勤務以外の柔軟な働き方を選べるようになります。
短時間勤務制度を提供することが困難と認められる業務の場合に限り、代替措置を講じる必要があります。この「困難と認められる業務」とは、以下のような状況を指します。
▶︎業務の性質に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
▶︎業務の実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
▶︎業務の性質及び実施体制に照らして、制度の対象とすることが困難と認められる業務
なお、この場合は企業は労使協定を締結する必要があります。
テレワーク導入のための準備
代替措置としてテレワークを提供する際には、以下の準備が求められます。
▶︎ITインフラの整備(セキュリティやリモートアクセス環境の確保)
▶︎テレワークが可能な業務範囲の特定
▶︎従業員と事前に運用ルールを共有し、合意を得るプロセスの整備
就業規則の改定
短時間勤務制度の代替措置にテレワークが含まれることを明記し、対象従業員に適切に通知します。
育児中の従業員がテレワークを希望した場合、企業にはその環境を整える努力義務が課されます。この改正の背景には、育児と仕事の両立を実現するための柔軟な働き方の推進があります。
従業員が1歳の子どもの育児を行いながら働く場合、通勤時間を削減することで育児時間を確保しやすくなります。また、子どもの急な体調不良に備えるため、自宅から仕事を続けられる環境が求められます。
企業が行うべき主な対応策は以下の通りです
▶︎ガイドラインの作成
テレワークの適用条件や利用手続きを明確に記載したガイドラインを策定します。たとえば、育児中の従業員がどのような場合にテレワークを希望できるのか、業務内容の適用範囲などを具体的に示します。
▶︎柔軟なスケジュール調整
テレワーク時の業務時間やタスク管理について、従業員と上司が事前に合意を形成する仕組みを導入します。
▶︎IT環境の整備
テレワークを円滑に進めるため、リモートアクセスツールやコミュニケーションツールを導入し、セキュリティ対策を徹底します。
2025年の改正では、育児休業取得状況の公表義務が従業員数1,000人超の企業から300人超の企業にも拡大されます。公表内容には「男性の育児休業取得率」や「育児目的休暇取得率」が含まれ、企業の透明性が求められます。
従業員500人の企業が、男性育児休業取得率を公表する場合、具体的な取得人数と取得率を年度ごとに開示する必要があります。
インターネットなどの一般の方が閲覧できる方法で公表する必要があるため、厚生労働省が運営するウェブサイト「両立支援のひろば」へのご登録をお勧めします。
公表のタイミングについては、公表を行う日の属する事業年度の直近の事業年度(公表前事業年度)の状況を公表前事業年度終了後、おおむね3か月以内とされています。
(引用:2025年4月から、男性労働者の育児休業取得率等の公表が従業員が300人超1,000人以下の企業にも義務化されます)
▶︎データ収集体制の構築
育児休業取得状況を正確に記録し、データを収集する仕組みを整備します。たとえば、勤怠管理システムに育児休業取得情報を統合することで、データ管理の効率化を図ります。
▶︎公開内容の明確化
公表する情報の範囲や形式を明確にし、厚生労働省が定める基準に準拠します。
▶︎透明性の向上
公表を通じて、育児支援への取り組みを社会にアピールし、企業のイメージ向上を図ります。
介護休暇取得の要件に含まれていた「労使協定による継続雇用期間6か月未満の除外規定」が廃止されます。
これにより、短期雇用者を含む幅広い従業員が介護休暇を取得できるようになります。
新卒で採用された従業員が勤務開始3か月目に親の介護が必要となった場合、改正後は介護休暇を取得することが可能です。これまでは対象外でしたが、制度が拡充されたことで働きやすい環境が提供されます。
▶︎就業規則の改定
介護休暇の取得条件に関する変更を正確に反映します。
▶︎労使協定の締結
「労使協定による継続雇用期間6か月未満の除外規定」が廃止されることに伴い、労使協定を締結します。
▶︎周知活動の強化
従業員に対して改正内容をわかりやすく説明し、制度の利用促進を図ります。
▶︎管理職への研修
介護休暇申請を受け付けた際の対応方法や適切な労務管理について、管理職を対象に研修を実施します。
介護離職を防ぐため、企業には以下のような、いずれかの措置を講じなければなりません。
▶︎介護関連研修の実施
従業員が介護制度を正しく理解し、適切に利用できるよう、研修を実施します。
▶︎介護相談窓口の設置
従業員が介護に関する悩みを相談できる専用窓口を設ける必要があります。
▶︎介護休業制度の周知
制度の利用方法や取得条件を明確にし、従業員に広く周知します。
▶︎利用促進方針の策定
介護制度を積極的に活用できる環境を整備し、事例共有を通じて利用を促進します。
介護相談窓口を設置することで、従業員から親の介護について相談を受けた際に適切な助言や制度の案内が行えます。このような体制が従業員の安心感を高め、離職防止につながります。
▶︎相談窓口の設置
専門的な知識を持つ担当者を配置し、従業員が相談できる環境を整えます。
▶︎情報提供の強化
介護制度に関するパンフレットやポータルサイトを作成し、従業員が必要な情報に迅速にアクセスできるようにします。
▶︎他社事例の活用
他社の成功事例を収集・分析し、自社に適した改善策を導入します。
今回の法改正では、介護に直面した従業員に対して、制度内容の個別説明や意向確認が義務化されます。この改正の目的は、介護離職を防止し、従業員が適切な制度を利用できるよう支援することです。
親の介護が急に必要になった従業員に対して、人事担当者が面談を行い、介護休業やテレワークなどの利用可能な制度について説明します。また、従業員の意向に応じた柔軟な対応を検討します。
▶︎個別面談の実施
面談を通じて従業員の状況や希望を把握し、適切な制度を案内します。これにより、従業員の不安を軽減します。
▶︎周知資料の準備
制度内容を簡潔かつ具体的にまとめた資料を用意し、面談やメールを通じて提供します。
▶︎早期対応の仕組み作り
従業員が介護に直面する前から情報を提供する体制を整え、安心して相談できる環境を作ります。
介護中の従業員がテレワークを選択できるように、企業はその環境を整える努力義務を負います。これにより、従業員は介護の時間を確保しながら、仕事を続けやすくなります。
親の介護が必要になった従業員が、週の数日を在宅勤務に切り替え、介護施設への送り迎えや家庭での介助に対応するケースが挙げられます。
▶︎運用ガイドラインの整備
テレワーク利用条件や対象業務を明確にすることで、混乱を防ぎます。
▶︎IT環境のサポート
テレワーク時の業務効率を高めるため、必要なITツールやセキュリティ対策を導入します。
▶︎従業員教育の実施
テレワーク利用時の注意点や生産性維持の方法について、従業員向けの研修を行います。
育児介護休業法の改正に対応するには、就業規則を変更し、改正内容を明文化すること必要です。
適切に対応しない場合、法令違反として罰則を受ける可能性があるだけでなく、従業員とのトラブルにもつながる恐れがあります。
改正内容を反映しないままでは、以下のようなリスクが生じます。
▶︎法令違反による罰則
▶︎従業員との信頼関係の低下
▶︎トラブルの増加
企業規模や業種に応じた柔軟な対応が求められます。以下のポイントを押さえて、適切に対応しましょう。
▶︎モデル条文の活用
厚生労働省が提供するモデル条文を参考に、自社の状況に適した内容にカスタマイズします。
▶︎専門家への相談
社労士や弁護士に相談し、法的に問題のない内容で就業規則を整備します。
▶︎従業員の声を反映
従業員との意見交換等を通じて、ニーズを反映した利用しやすい制度に仕上げます。
法改正にスムーズに対応するため、以下のステップを順に実行しましょう。
まず、法改正の内容を正確に把握し、自社に適用される項目を特定します。
例えば、育児休業取得率の公表義務が従業員数300人超の企業に適用される点に注意し、対象であるかどうかを確認します。
改正内容を反映した就業規則を作成します。
この際、モデル条文を活用しつつ、自社独自の規定を盛り込むことが重要です。
子の看護休暇が子の看護等休暇に変わるなど、細かな変更点も多いためご留意ください。
従業員の代表者と改定内容を共有し、意見を聴きます。
協議を円滑に進めるためには、改正内容の趣旨をわかりやすく説明することが求められます。
また、必要に応じて労使協定を締結しましょう。
10人以上の従業員を雇用している場合、改定した就業規則は、意見書を添えて労働基準監督署に届け出る必要があります。
改定内容を従業員に周知し、新しい制度の利用方法や申請手順について教育を行います。
説明会や社内ポータルサイトを活用して、従業員が制度内容を理解しやすいように工夫しましょう。
A: 改正内容の大半はすべての企業に適用されます。ただし、育児休業取得率の公表義務など、特定の規定は従業員数300人以上の企業が対象です。
A: 書面配布、電子メール、社内掲示、説明会など、従業員が変更内容を確実に把握できる形式を用います。弊社では最近就業規則の説明会のご依頼が増えています。
仕事と家庭の両立支援に取り組む事業主に向けて、両立支援等助成金があります。
要件を満たしている必要がありますが、該当者がいる場合にはぜひご活用ください。
社労士や弁護士に相談することで、法改正対応をスムーズに進められます。
専門家のアドバイスを受けることで、就業規則の適正化や従業員対応の質を向上させることが可能です。
2025年4月1日施行の育児介護休業法改正は、企業にとって重要な転換点です。
今回の改正を機に、職場環境を整備し、従業員満足度を向上させることが求められます。
早めの準備と柔軟な対応を進め、従業員が安心して働ける環境を実現しましょう。
社会保険労務士法人アミック人事サポートでは、育児介護休業法の対応や就業規則に詳しいプロがご相談に応じます。お気軽にご相談ください。
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